大量調理の野菜炒めをシャキッと美味しく作るポイントは?
給食調理員を10年以上続けて今に至りますが、大量調理の調理スキルにおいて
一番実力の差が出るのが、「炒め物」だと感じます。給食の現場で登場する頻度も高く、
一見簡単に思えて、実は上手に仕上げるにはコツがいります。
大量調理で炒め物を作る際には、回転釜やブレージングパンを使用して、
一度に100食以上を作る現場が数多くありますが、適切な調理方法を知らないと
野菜がクタクタで水っぽくなり「炒め煮」や「野菜スープ」のような仕上がりになります。
実は、一度に大量の野菜炒めを作るには、いくつかのポイントがあります。
そのポイントをマスターすれば、時間が経っても水っぽくならず美味しく仕上がります。
できる限り詳しく解説しますので、ぜひマスターしてください(^^)
:目次:
1: 炒め物の3つのポイント
@食材を塩ゆでする
Aタレの粘度を強めにする
B仕上げは食材とタレを和える
2: 知っておきたい予備知識
@炒め物とは温かい和え物である
A中華の調理技法と共通している
B自宅で練習して現場で実践する
3: まとめ
1: 炒め物の3つのポイント
大量調理では、炒め物を作ってから喫食まで、最低でも30分以上は間が空くはずです。
つまり、作り置き状態でいかに美味しさを保つかがポイントになります。
その点を念頭に置き、3つのポイントをご紹介します。
@食材を塩ゆでする
最も重要なポイントは、食材の水分を炒める前に適度に落とすことです。
生野菜をそのまま鉄板で炒めると、野菜から出てきた大量の水分によって
食材自身が蒸し煮状態になってしまい、クタクタになってしまいます。
それを防ぐには、塩を加えたお湯で湯通しする(塩ゆで)する必要があります。
野菜を湯に通すことによって、70〜75℃で細胞膜中のペクチンが分解され
水分が外に排出されます。水分をあらかじめ適度に抜いて余熱で火を通しておくと、
炒め時間が非常に短くなります。
また、塩を入れておくことによって浸透圧が働き、食材から水分が抜けやすくなります。
炒める際には塩分濃度の高いタレに食材を絡めても、水分の流出が最小限に
抑えることができます。
加えて、塩茹でには次のようなメリットもあります。
- 下味がつく
- アク・臭み・汚れが落ちる
- 甘みが引き出される
塩水によって食材そのものに下味がつくので、タレのみで味付けした場合に比べ、
味がボケにくくしっかりとした味付けになります。日本料理で言うところの「醤油洗い」に
似ており、塩が食材とタレを繋ぐ役割をしてくれます。
湯通しすることによって、野菜・肉から発生するアク・臭み・汚れを落としてくれます。
家庭のように少量の場合はあまり気になりませんが、大量に食材を調理する際は、
アク・臭み・汚れも多く排出されるので気を付けましょう。
野菜は高温短時間で火を通すよりも、余熱を利用してジンワリ火を通した方が、
糖転化が進み、甘みが引き出されることが分かっています。
食材を湯通しすると、食材を湯から引き揚げても”余熱”で内部にゆっくりと
火が通ります。この余熱を計算して、食材を引き揚げるタイミングを見分ける
必要がある訳ですね。基本的には、引き揚げたタイミングで、”半生”くらいの
少し硬さが残る程度を目安にします。
以上が、塩ゆでによる脱水以外のメリットです。
塩ゆでした食材は、ザルに取ったら斜めに傾けてしばらく時間を置き水を切っておきましょう。
水分がしっかりと切れていない状態で炒めると、水っぽくなりますので注意しましょう。
Aタレの粘度を強めにする
現場によって市販のタレを使うところもあれば、手作りの合わせ調味料を使う現場も
あるかと思います。いづれにおいても、重要なのはタレの粘度を強めにすることです。
大量調理の炒め物は、できたてを食べるわけではなく、30分以上作り置いたモノを
食べる訳なので、その間に食材の水分が多少なりとも出てきてしまいます。
タレの粘度が弱いと、食材にまとわりついたタレが水分によって徐々に
剥がれてきますので、水っぽくなり味が薄く感じるようになります。
その点を考慮し、タレの粘度は強めにすることが重要です。
市販のタレは粘度が付いていることも多いのですが、手作りの合わせ調味料を
作る場合には、水溶き片栗粉で粘度をつけておきましょう。ただし、極端に粘度が
強いと”野菜あん”になってしまうので、目安は、ケチャップくらいが適切かと思います。
B仕上げは食材とタレを和える
仕上げは、塩ゆでした食材とタレを絡めるだけで完成です。
食材の下加熱とタレがうまく調味できていれば、この段階での失敗はほとんどありません。
食材にも8〜9割がた火が通ってるので、”炒める”というよりも”和える”という感覚
に近くなります。そう!実は大量調理の炒め物とは”和え物”だったのです。(^o^;)
2: 知っておきたい予備知識
私はこれまで諸先輩方の色々な調理方法を見て学び、試行錯誤してきましたが、
調理完成から30分以上経っても美味しさが保たれている調理方法は、おそらく上記の
やり方だとベスト感じています。実は、この調理方法がベストであると確信するにあたり、
いくつかきっかけがありましたので参考までにご紹介します。
@炒め物とは”温かい和え物”である
料理雑誌にて、給食調理経験の豊富な料理研究家の方がコメントしており、
印象的だったのが”炒め物とは温かい和え物である”ということでした。
要するに、炒め物とは火の通った食材を温めたタレで和えるモノであり、
決して鉄板でジュージュー炒めるものではないという内容でした。
家庭で炒め物を作る場合は少量なので、生野菜を直接炒めても、鉄板の熱で水分を
飛ばしながら炒めることができます。しかし、大量調理では鉄板の熱で野菜の水分を
飛ばしきることは物理的に難しいため、事前に水分を抜いておくことが必要という訳です。
私はこのコメントを見て、自分なりに考え実践してきた調理方法が、
プロの方と同じであることで更に自信が着いたのを記憶しています。
A中華の調理技法と共通している
中華料理の調理技法は非常に合理的で、短時間かつ最高の仕上がりで料理が
作られるように考え抜かれています。特に、中華の炒め物の作り方を見てみると、
”油通し”で食材にほぼ火を通しておき、中華鍋で合わせた調味料にサッと和える
だけです。そうです、大量調理の炒め物の作り方とほぼ同じなんですね。
違いと言えば、大量調理では”油通し”ではなく”湯通し”で食材に火を通して
いることと、合わせ調味料をあらかじめ計量して調味しておくことくらいです。
中華の調理方法と、大量調理の調理方法がに共通点があることは意外ですが、
どちらも”合理的”である訳ですね。
B自宅で練習して現場で実践する
現場で新しい調理方法を試そうとする場合、作る量も多いため「失敗したら怖い」と
不安を感じる方も少なくないかと思います。その不安を解消する為には、現場で実践
する前に自宅で練習することをオススメします。
基本的には、大量調理の作り方は自宅の家庭料理にも応用できます。
炒め物であれば、「食材を塩ゆでする」「タレを作っておく」「フライパンで合わせる」
の3点を行うだけなので、簡単に練習できるかと思います。
3: まとめ
いかがででしたでしょうか。
今回ご紹介した炒め物の調理方法は、食材の水分を的確に処理しているので、
作ってからある程度時間が経っても水っぽくならず美味しくいただけくことができます。
炒め物の味付けの仕方については、別記事で詳しく紹介していますので、
そちらも参考にしてみてください。(^ ^)