【具体例で紹介】大量調理の味付けのコツ
私が20代の頃給食業界に飛び込んで、最も悩んだのが「味付け」についてでした。
給食業界では、大量調理に関する教科書・マニュアル類は数多く出版されてますが、
食材の加熱・味付け方法に関する実践書が(私が20代の頃は)ほとんど存在せず、
現場で体で覚えるのが基本といったスタンスでした。
ですから当時、ベテランの諸先輩方に直接指導して頂きましたが、
「舌で覚えろ」「目分量で判断しろ」といった個人の感覚に頼る部分が大きかった為、
作る人によって塩辛かったり、味が薄かったりといったケースがありました。
「塩加減は何を基準にしているのか?」
「塩分と糖分のバランスは何故これで良いのか?」
といった重要なのに曖昧にされている点が数値化・体系化されておらず、
今でこそ解決法を見出して後輩にも自信を持って指導していますが、
当時はモヤモヤと悩んだ記憶があります。
当ページでは、そんな大量調理で重要となる「味付け」に関して、
経験やスキルに関係なく、知識として知っていれば誰でもすぐに実践できるテクニックと具体例をご紹介します。
※当ページでは、調理工程における「調味操作(特に味付け)」のみに焦点を絞り解説します。
:目次:
1: 調味パーセントで味付けの悩みを解決
2: 調味パーセントはメリットが沢山!
2.1 味付けが一発で決まる
2.2 誰が作っても同じ味になる
2.3 何度作っても同じ味を再現できる
3: 定番献立で調味パーセントを活用
3.1 具体例@:豚肉の生姜焼き
3.2 具体例A:牛肉のオイスター炒め
4: まとめ
1: 調味パーセントで味付けの悩みを解決
栄養学(調理理論)には、「調味パーセント」という安定した味付けを実現する手法があり、
これを利用することで大量料理の味付けの悩みは、ほぼ解決できます。
これほど便利な手法はないと思うのですが、実際の調理現場でこの「調味パーセント」を
十分に活用している調理員には、これまでお会いしたことがありません。
塩分の好みはほぼ共通
味付けは、五味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)を意識して行うものですが、
最も重要になるのは「塩味(塩加減)」です。と言うのも、甘みや酸味の強度は、
個人の好みによる部分が大きいのですが、塩味(塩加減)に関しての好みの加減は
ほぼ共通しており、人間の体液の塩分濃度(1%弱)が目安となっている為です。
塩分濃度は食材重量の1%が基本
つまり、味付けに用いる調味料の塩分濃度が、食材重量の1%を基準に調整すれば
ちょうどよい塩加減となるのです。これは、家族分など少量を作る場合、あるいは一度に
100食以上と大量に作る場合でも変わりません。
2: 調味パーセントは炒め物で大活躍!
調味パーセントの手法が、大量調理で最も活躍するのが「炒め物」だと思います。
焼き物、揚げ物、汁物などの塩分は、ソースや塩で後からでも足すことが可能ですが、
炒め物の味付けは基本一発勝負なので、確実な塩加減が求められます。
2.1 味付けが一発で決まる
また、調味パーセントを知らずに目分量で炒め物のタレ(合わせ調味料)を作ると、
「タレの量が足りなくて味が薄かった」「タレの量が多くて余ってしまった」などと
いったケースが発生しますが、調味パーセントに基づいてタレを作っておけば、
必要な分量のみ作り一発で味も決まりいいコトづくめです。
2.2 誰が作っても同じ味になる
加えて、必要な調味料の計算さえしておけば、ベテランまたは新人の誰が
調理を担当しても同じ味付けになるので、仕事の標準化も進み、
「あの人でないと味付けがうまくできない!」といった属人的な悩みも
解消されることになります。
2.3 何度作っても同じ味を再現できる
作るたびに、味付けが薄かったり濃かったりする人はいないでしょうか。
調味パーセントで塩分濃度をしっかりと計算したレシピを持っておけば、
何度も作っても安定した味付けをすることができます。
3: 定番献立で調味パーセントを活用
それでは、定番の献立例で調味パーセントの使い方を確認しましょう。
ここでは、炒め物2品を例にとって解説します。
3.1 具体例@:豚肉の生姜焼き
まずは、給食では定番の豚肉の生姜焼きです。
3人分を例に計算してみます。
●具材600g(3人分)
- 豚バラ肉 450g
- たまねぎ 150g
●調味料(3人分)
- 濃口醤油 大さじ2.5(塩分:6.5g)
- 料理酒 大さじ1(塩分:0.3g)
- 砂糖 大さじ2(糖分:18g)
- みりん 大さじ1(糖分:6g)
- おろし生姜 小さじ1
各調味料に含まれる塩分・糖分は、
- 濃口醤油大さじ1で塩分量は約2.6g。
- 料理酒大さじ1で塩分量は約0.3g。
- 砂糖大さじ1で糖分量は約9g。
- みりん大さじ1で糖分量は約6g。
となります。
料理酒にも塩分が含まれることを忘れないようにしましょう。
塩分濃度と糖分濃度を計算すると、
- 塩分濃度=(醤油+料理酒)÷食材重量
- 糖分濃度=(砂糖+みりん)÷食材重量
となりますので
塩分濃度は約1.14%、糖分濃度は約4%となります。
塩分濃度は1%が基本となりますが、
白飯のおかずとして食べるような炒め物(生姜焼き等)は1.2%くらいに
調整した方が美味しく感じると思いますので気持ち濃いめです。
糖分濃度は、1〜6%の間で調整するのが基本ですが、
各個人の好みによる部分が大きいので調整してみてください。
甘めの味が好みの場合は、4〜6%程度が適切かと思います。
個人的には、白飯のおかずとして食べるような炒め物(生姜焼き等)は
糖分を気持ち多めに調整すると美味しく感じると思います。
3.2 具体例A:チンジャオロース
2つめですが、これまた定番のチンジャオロース(豚肉とピーマンの細切り炒め)です。
オイスターソースと醤油を基本とした中華系の味付けは汎用性があるので
ぜひ覚えてみてください。
●具材600g(3人分)
- 豚ロース肉 140g
- ピーマン 160g
- 筍 160g
- 玉葱 140g
●調味料(3人分)
- オイスターソース 大さじ1.5(塩分3.2g・糖分4.5g)
- 濃口醤油 大さじ1(塩分2.6g)
- 鶏がら顆粒 小さじ1(塩分1.2g)
- 料理酒 大さじ1(塩分0.3g)
- 砂糖 大さじ1/2(糖分4.5g)
- おろし生姜 小さじ1/2
- おろしにんにく 小さじ1/2
- ゴマ油 小さじ1
となります。
オイスターソースには塩分だけでなく糖分も含まれていますので、
忘れないようにしましょう。また、メーカーによって塩分量に差がありますが、
大さじ1に対して食塩2.1〜2.3g含まれているのが普通です。
容器のラベルに100gあたりの食塩相当量が記載されているはずなので、
大さじ1(=約18g)に対して何gの食塩が含まれているかを確認しましょう。
塩分濃度と糖分濃度を計算すると、
- 塩分濃度=(オイスターソース+醤油+鶏がら顆粒+料理酒)÷食材重量
- 糖分濃度=(オイスターソース+砂糖)÷食材重量
となりますので
塩分濃度は約1.2%、糖分濃度は約1.5%となります。
4: まとめ
いかがでしたでしょうか。
調味パーセントは一度使い方をマスターしてしまえば、大変便利な手法です。
特に、大量調理のように、一発勝負で失敗が許されないような状況においては
大変重宝されるはずなので、ぜひ兆戦してみてください。(^ ^)